Column ひとこと

身近な地域の文化財建造物『門と蔵の野外博物館』2019/11/30

松戸市の幸谷地区にある「関さんの森」は、30年以上も前から「こどもの森」と呼ばれて市民に開放され、地域の人たちに親しまれてきており、私も私の子どもたちも、遊ばせてもらいました。
都市に残る里山『関さんの森』を守ろうという「関さんの森を育む会」と「関さんの森エコミュージアム」の活動により、近年ではその存在がメディアなどでも注目され、遠くからも訪れる人が増えてきています。
「関さんの森を育む会」では、主に森の保全と維持管理に取り組んでいますが、それと並行して、森の自然のみならず、貴重な歴史的財産をまとめて、生きた博物館として整備し、地元の人が説明員となる、体験も可能な野外展示型博物館を目指して2008年に「関さんの森エコミュージアム」が発足しました。

『関さんの森』について詳しくはこちらをごらんください。関さんの森エコミュージアム

私は、千葉県建築士会主催の「歴史的建造物の保全・活用に係る専門家育成カリキュラム」を受講し、その自主演習として、「身近な地域の文化財建造物の発見・抽出」で関家の蔵と門を調査させてもらおうと、森を訪ねたことから、思いがけず『関さんの森』の「門と蔵の再生事業」に、有志の建築士たちと共に参加させていただくことになりました。

門と蔵の野外博物館1

それから丸4年かけて、関さんの森の方々と建築士たちが協力して準備を進め、第1ステップとして、2019年11月17日に、「関さんの森・ふるさとの集い~蔵から見える昔の暮らし~」にて、3つの蔵のうちの一つ「雑蔵(ぞうくら)」が公開されました。

古い建物や、蔵そのものは移築されて残されているものも多いのですが、敷地の中で母屋と蔵の配置が昔のままの原風景をとどめているのは大変貴重です。配置もそのまま残したいというのが先代の関武夫さんの希望でした。

蔵の中にあった大量の古材の移転や清掃、床の補強等して、蔵の内部を整備し、関家で昔使われていた道具類のいくつかを展示しました。

門と蔵の野外博物館1門と蔵の野外博物館2

展示品の数は多くなく、手作り感のある簡素な展示になっています。
道具の名前だけが紹介されており、特に説明はありません。
そこにいるスタッフが、関さんの話を元に、使い方などを教えるのですが、説明するというより、見ている人と展示品を題材に対話している感じです。
このミュージアムはただ見て回るだけでなく、実際に触って、手に持ってみて、体験し、体感してもらう、体験型の博物館になっています。

ある男性訪問者は「ここにあるものの多くを自分も昔使ったことがあり、とても懐かしい」と話が盛り上がり、小槌の説明で女性訪問者に実際に持ってもらったところ、「へーえ、こんなに重いものなの。筋トレにちょうどいいわね」と大笑いしたり・・・。
機械設備に慣れている子どもたちは、初めて見る昔の道具に、珍しがったり、驚いたり・・・。
そんな子どもたちに、お年寄りは喜々として昔の暮らしについて話し始めることでしょう。
ここは、世代を超えた人々の交流の場となることが期待できます。

建物は使われなければ朽ち果てていくだけです。
でも、その建物が役割を持ち、人が入り、手で触れ、言葉を交わすことで、建物は命を取り戻します。
「ふるさとの集い」では、大勢の人が訪れました。
4年前に見たときは眠っていた「雑蔵」が、この日はなんだか生き生きとしているように見えました。

今回の公開は野外博物館としての第一歩であり、歴史的建造物の再生と活用、そして、このような里山が都市の中にあり、街の中に記憶の景気となるものがあるということ、ここから豊かなコミュニケーションの機会を作っていくことができるという期待が膨らむ大変画期的なことでした。

この事業はやっと一歩を踏み出したところです。
これからも野外博物館としての役割を広げていく活動は続きます。

by Taguchi