8月より、千葉県建築士会主催の「歴史的建造物の保全・活用に係る専門家育成カリキュラム」を受講しています。
皆さんの周りでも、けっこう歴史的建物があっけなく壊されていくのを目にしたことがあるのではないでしょうか。昔を忍ぶ古い貴重な建物がどんどん失われつつある今、それらをなんとか残そうという動きがあります。
このカリキュラムは、重要文化財と指定されるほどではなくても、昔の工法だったり、今ではなくなってしまった材料で作られたりしている貴重な建造物を見つけて、拾い上げていこうという活動の一環です。
その講習会で、『文化財建造物の活用』と題して、浦安市の実例が紹介され、浦安市郷土博物館を見学してきました。
見学、というより、体感してきた、という方が合っているかもしれません。
昭和27年頃の人情味あふれる漁師町「浦安」の生活体験ができる市民参加の体験型博物館であり、懐かしく、とても楽しいところでした。
この博物館の企画・設計段階から工事完成まで、建築史研究者として、また、市の文化財審議委員として携わられた丸山純先生のお話を伺いました。
「博物館も広い意味での福祉施設です」と先生はおっしゃっています。
通信の大学で博物館学を学びましたが、社会教育的意味を持つ博物館が福祉施設だとは聞いたことがありません。
先生は神奈川県の屋外民家博物館での古い農家で、家族に連れられて来ていたおじいさんが、古民家に入るや否やとても元気になり、孫たちにかまどの説明や昔の生活について活き活きと語っていたのを見て、その思いを強くしたそうです。
「回想法」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
「回想法」とは、認知症患者やその予備軍が、自分の過去のいきいきしたシーンを回想してそれを語り、聞き手との交流を通して人生を振り返ることで、心の安定や周囲の人との質の高い交流を目指す心理療法で、認知症の治療や予防法として最近注目され、次第に普及してきているそうです。
浦安市郷土博物館のボランティアスタッフは、皆それぞれ伝統芸能や生活技術の保持者であり、同時に「教師」でもあります。そのスタッフのメンバーの多くが浦安の旧市街に住むお年寄りたちなのです。
メンバーたちは、訪れた人に、昔の浦安のことや生活をうれしそうに活き活きと語ります。
彼ら自身が、郷土博物館という場所において、予防的な「回想法」を実践していると言えるのです。
先生は、これからの高齢者社会において、市民が活き活きとくらしてゆくためには、博物館という閉じられた領域においてではなく、まちの中にそうした記憶の契機となるものを散りばめ、そこから豊かなコミュニケーションの機会を作っていく必要があるともおっしゃっていました。
建築に携わる者として、また、私自身が高齢になろうとする今、とても興味深いお話でありました。
by Taguchi