Column ひとこと

新築か、リフォームか2009/02/03

政府は2006年6月に制定された「住生活基本法」で、少子高齢化や環境問題を背景に、それまでの「つくっては壊す」フロー消費型の社会から、「いいものをつくって、きちんと手入れして長く大切に使う」というストック型社会への転換が急務であり、ストック重視の住宅政策への転換を明言しました。
建築業界ではもうずいぶん前からその問題は横たわっており、そういうビジョンを持って実際に家づくりをしている方たちも数多くいらっしゃいます。政府が「200年住宅」という政策を打ち出したことは、業界にとって久しぶりに明るい話題でした。
現在日本の住宅の多くは20~30年で壊されているのが現実です。それは、それらの建物が建てられた当時のことを考えればいたしかたないことかもしれません。当時は「新しいもの」や「新しくする」ことに価値があり、それによって消費が拡大し経済も成長しました。建築業界もあたり前のように「スクラップ・アンド・ビルド」を繰り返し、新建材など偽もので安価な材料が多く使われました。それによって多くの消費者にマイホームの夢を与えたことは事実だろうと思います。しかし、それが日本の犯した過ちでした。
たとえばヨーロッパの石造りの家は永く住み続けることを前提として造られていますが、日本は簡単に建てて簡単に壊してしまう流れで来てしまいました。欧米の家が建てたときが完成ではなく、それから時間と手間をかけて住まう者が家を造りあげていき、それによって家の価値が上っていくのに対して、今までの日本の住宅は建てたときが一番きれいで、そのあとは汚れて老朽化し家の価値は下がっていきました。受け継いでいく伝統とか歴史というものが新建材の家では生まれにくかったでしょう。
現在供給されている住宅は60年以上の耐久性能があるとされています。「200年住宅」というのは200年もつということではなく、住宅のロングライフ化を象徴的に示す言葉ですが、3世代が住み継いでいける住宅をめざすのですから、これは日本にとって画期的な政策でしょう。

現在の住まいに不具合を感じてきて、快適な住空間を求めようという場合、リフォームにするか思い切って建て直すか、判断に迷うところではないかと思います。ストック重視の視点からいけば、リフォームに軍配が上がりそうです。一軒の家を壊すとなると、相当な産業廃棄物が出ます。エコの面から言っても今ある建築を活かしながら、手直しを加えてそれを住み継いでいくというリフォームのスタイルが重要視されてくるでしょう。

また、現代のリフォームは、これまでのただ設備を交換し、壁紙を取り替えるというようなたんなる修繕ではなく、今ある建物とともにある思い出を引き継ぎ、かつ空間を現在のライフスタイルや時代に合わせていく、という積極的かつ創造的リフォーム(リノベーション)です。既存の建物に新しい息吹を吹き込むという現代のリフォームは、思い出や歴史を残していけるという点で、もしかしたら新築を超える可能性があるかもしれません。

考えつくして家を建てたつもりでも、生活していく中で「ここが使いにくい」「こうだったら・・・」と不満点が出てくるでしょう。当初はわからなかった内なる要求も現れてくるかもしれません。
リフォームでは不満や要望がわかりやすいので、今の生活を大きく崩すことなく、不満点を改善し、より快適な空間が得られるのです。
大切なことは「どうしてリフォームしたいのか」という理由をはっきりさせることです。今ある問題点と、今後のライフスタイルの変化によって生じてくるであろう問題点を出していき、どうしたいのか家族でよく話し合うこと。そうすることで無駄なく価値のあるリフォームができると思います。思いつきのリフォームは、新たな不具合と、取り返しのつかない後悔につながることもありますので十分検討しなければなりません。
リフォーム前の惨状から劇的に空間を変化させ、建て主に驚きと喜びを与えるというテレビ番組がもてはやされています。新築よりは安い資金で大きなサプライズが期待できるのもリフォームのおいしいところです。しかし、一見、建て主の希望を叶えたかに見えるリフォームが、はたして安全で、生活しやすい空間なのか、本当にそこに住むご家族がそれからの暮らしで幸せを感じられる住まいなのか。それに携わるものは常に何が建て主にとってベストなのかを考え、表面上は見えない安全性、機能性などの面でも確実な仕事をしていかなければなりません。

リフォームでは住み手の要望が明確でよいのですが、現場の状況でそれが難しい場合があります。ではどうしたらよいかといろいろ試行錯誤するうちに、なんらかの解決策が浮かんできます。設計する方の立場としては、ゼロから設計できる新築に惹かれる気持ちはもちろんありますが、規制があるがゆえに、新築では得られないプランやデザインが生まれ、それがリフォームの醍醐味でもあります。
ただ、リフォームには限界がありますし、思わぬところで費用がかかってしまうことがあり、見積がむずかしい面があります。結果として解決策が「建て直し」という場合もあります。
うちの事務所でも当初増改築の予定で始めたものが途中で新築になったケースがあります。それは、15年ほど前に一度増築している建物を、お子さんが大きくなってきたのでまた増改築したいというお話から始まりました。結果的には、将来増築部分と既存の部分の耐用年数がバラバラになってしまうことと、実際リフォームを計画し始めると、どんどん要望が増えていき工事費が上ってしまい、それならいっそのこと建て直してしまった方が、という答えになったのです。
また、我が家のことをいいますと、築30年近くなりいろいろと不具合がでてきていますのでリフォームをしたい気持ちは山々なのですが、基礎・構造に不安があり踏み切れないのです。せっかくリフォームしても、建物自体がいつまで持つか・・・。内装をきれいにするだけではその場しのぎになってしまいます。将来にわたって住み継いでいくためには、しっかりした骨組み(構造)が不可欠なのです。

一方、新築の最大のメリットは、暮らしをゼロから組み立てることができるということでしょう。新たな気持ちでその土地に対して思いを込め、しっかりした骨格の建物を建て、メンテナンスしながら時間をかけてその家らしいテイストを加えていくのです。
「住まいは決して固定的なものでなく、生活に便利なように変わっていくもの」と、吉村順三氏は言っていますが、ライフスタイルが変化するたびに家を建て直すことはできません。これから家を建てるならその変化に対応していけるようにフレキシブルな建築を作ることが大事になってきます。スケルトン(構造躯体)/インフィル(中身)の概念を大事にし、将来リフォームしやすい建物を作っていくことが必要でしょう。使い捨て文化の反省をもとに、次世代に引き継ぐにふさわしい住宅の質を追求していくこと、また長く住み継いでいくためにメンテナンスしやすいことも大切です。
そして、周辺の街並みとの調和を大事にすること、その建物が建つことで周りに与える影響を深く考慮したいものです。同時に、土地の周りの将来の変化、たとえば現在は畑になっていて広々しているが、10年後はどうかなどとイメージしながら建物を考えていくこと。
建築はその場の景色を変えていきます。将来的によい景観に育っていけるよう思いを込めて建物をつくっていきたいものです。

「新築か、リフォームか」・・・それはケースバイケースで違うので、簡単にどちらがいいとは言い切れません。
まずはご家族でよく話し合い、問題点や要望を出し合うことです。そして、リフォームでいけるのか、新築の方がよいのか、そこからは建築のプロにご相談されるのがよいでしょう。
やむを得ず今の建物をあきらめ、新しい建物をつくるということになったなら、今度こそ「この家はずーっと住み継いでいきたい家ですから」と言えるような家を造りましょう。

by Nakane