学生の時初めてヨーロッパに旅行した。その時の思い出で一番印象に残ったのが、パリのノートルダム大聖堂であった。その聖堂の前に立ったとき、石造りで重厚感があり荘厳にそびえたつ姿に圧倒されたものである。その姿はまさに石の塊でありながら、天にも昇るかと思える構造を現していた。またその内部は外観ではほとんど意識されなかったステンドガラスのバラ窓が、緊張する闇の中ですばらしい輝きを放っていたのである。宗教建築ということからその国、地域の人々にとって、威厳のある建築を求められたのであろう。我々日本人はその見慣れない建築物にその地域の人々以上の驚きを覚えるのかもしれない。なぜなら日本の伝統的な建築は、ヨーロッパのそれとは全く異質な木造であるからだ。
ヨーロッパの建築と日本の建築を比較することで各々のデザイン文化を考えて見たいと思う。
ヨーロッパの建築は石造である。石造はひとつずつ石を積み上げていく工法である。まず壁を立ち上げるのである。そして壁で囲まれたひとつの明確な領域、閉鎖的な空間を形成することにより、最終的に屋根を支える構造となる。それゆえに開口部はあたかも壁をくりぬいた様に開けられ、私が聖堂で感じた闇と光の強烈なコンストラストは、そのことによるのではないかと思われる。
それに対して日本の建築は木造である。最初に一本の柱を建てることにより、その建築は構築される。柱と梁とで屋根を支える構造になっている。そのため大きな開口部を取ることができる。それによって外部と内部は空間的、視覚的にもつながり、光も柔らかく内部を照らすのである。
一本の柱から構築された空間は、あたかも碁盤にひとつの石を置いた姿に似ているように思われる。碁石の周りに、ある種の領域が生じるのである。その領域は西洋の明確な領域とは異質のものであり、それはあいまいな空間を形成しているように思われる。日本建築の工法的な特徴はそのあいまいな空間を生み出し、デザイン的には軒からの大きな庇や縁側を表出した。それは内と外への連続性、開放性をもたらすことになった。
このようなデザインは都市にも現れている。西洋は建築で囲まれた広場を中心に都市が形成されている。都市はひとつのかたまりなのである。それに対して日本の都市は連続性のある道のネットワークによって都市が広がっている様に思われる。
絵画においてもこの文化的風土による違いがある。画家の中川一政は次のような事を述べている。
(「美術の眺め」講談社文芸文庫「南画論5」より)
西洋の絵画は内に向かい、日本の絵画は外に向かった。日本人の芸術の感性が建築デザインにも何らかの影響をもたらしたのかもしれない。 デザインも芸術と関係するところは大きい。それは一言でいえば、デザインも感性にかかわるということであろう。
工法や感性の相違から、西洋建築は明確な領域を形成し内に向かい、日本の建築はあいまいな空間を形成しつつ外に向かったのではないだろうか。
by Taguchi